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今そこにある危機(47) [国際・政治情勢]

そろそろ安全保障のための「本当の話」をしようじゃないか

「対北朝鮮先制攻撃論」「中国仮想敵論」「戦車無用論」ほか”国防のタブー”を破り捨てろ=本姓政界特捜班

(SAPIO 2009年7月22日号掲載) 2009年7月27日(月)配信

文=本誌政界特捜班

 北朝鮮が3回目の核実験を予告し、中国は空母を開発中。ロシアは北極海航路の開発でオホーツク海での海軍力増強を目論んでいる。日本周辺諸国の軍事費は、この10年間に中国が約2倍、ロシアは2・7倍、韓国でさえ1・5倍に増やしているのに、日本は7年連続のマイナス。今年末には10年ごとに策定する政府の「防衛大綱」の見直しと今後5年間の装備調達を決める「中期防衛力整備計画」がまとめられる予定だが、財務省は防衛費をさらに削減する方針を示している。
 果たして、自衛隊には1億3000万同胞を守る十全な能力が備わっているのか。まず議論はそこから始まらなければならないはずだ。

<弾道ミサイルの技術はすでに日本にある>

 本誌は「自衛隊の本当の実力」を明らかにし、在るべき姿と、そこに至る障壁を探るため、複数の防衛関係者に取材し、異なる立場から本音をぶつけてもらうために座談会を試みたが、さすがに現役の幹部らは匿名取材には応じても、他の取材対象者との座談にはしり込みした。防衛機密を知る立場の者たちであれば、それも当然だろう。

 以下の座談会は、本誌の企画に賛同してくれた自民党防衛族議員A氏の呼びかけに、防衛省内局に在籍した幹部OBのB氏、陸上自衛隊元佐官のC氏、さらに防衛産業出身のD氏が応じて実現した。ただし、一部は対談形式の話を反映したり、個別の発言を後から補足したりした。

 現場を離れているとはいえ、立場を異にする専門家同士の議論は、のっけから白熱した。



佐官C 財務省は来年度も防衛費を1%削減すると言っている。これは私見だが、私は防衛力の空洞化を招いたのはミサイル防衛(BMD)(脚注参照。以下同)だと思っている。政治家も国民も迎撃ミサイルで国が守れると思い込み、財務省はそれを口実に「BMDがあれば兵力削減できるだろう」と予算削減に乗り出した。小泉内閣がまだ日米共同研究段階だったBMDの実戦配備を決めたところから、不確実なものへの妙な過信が生まれた。

内局B それは少し言い過ぎでしょう。ミサイル防衛は無駄でも無能でもない。

防衛産業D かなり命中精度が上がっていることは事実ですね。このシステムの導入を急いだ理由は言うまでもなく北朝鮮によるミサイル、核開発に対抗するためだが、北朝鮮は日本を射程に入れたノドンを450基保有し、ランチャー(発射台)は移動式を含めて30基ある。一斉に発射されれば、在日米軍を合わせてもすべて迎撃することは不可能だというのも事実です。

国防族A 政治家も、本気で防衛を考える者は、ミサイルだけで日本を守れるとは思っていない。だから自民党の国防部会は6月にまとめた新防衛大綱に向けた提言で、防衛費の増額と、「敵ミサイル基地攻撃能力の保有を検討すべき」と盛り込んだ。

内局B 本気で敵地攻撃を考えるなら、航続距離の長い爆撃機や空中給油機、特殊部隊が必要だ。政治家は世論を恐れてそこまでの議論はしない。

防衛産業D 北朝鮮のノドンへの対抗措置は3つ考えられます。まず戦闘機による攻撃。日本がF︲22 を購入できたとしても、機体にレーザーJDAM弾を積んで日本から飛べば約1時間かかる。国境付近に待機していても30分は必要でしょう。対する弾道ミサイルの飛行速度はマッハ8で、7~8分で日本に到達する。

2番目はトマホークなどの巡航ミサイル。これも日本からは1時間、日本海のイージス艦から発射したとしても30分だ。北の持つミグ29は、能力的には高高度から敵を発見するルックダウン性能を持っているから、途中で撃墜される可能性も否定できない。

 第3の方法は、日本も弾道ミサイルを持つことです。本当はこれが一番効果がある。

佐官C 通常弾頭で十分なのだが、迎撃ミサイルはよくても攻撃用のものだと世論も国会も反対する。

国防族A 自民党の提言にも、巡航型長距離ミサイルまたは弾道型長射程固体ロケットの開発は挙げられている。むしろ技術の問題だ。

防衛産業D そうでしょうか。たとえばIHIエアロスペースが宇宙航空研究開発機構と共同開発した「M-V」ロケット。日本のロケットは三菱重工のH-ⅡAが有名ですが、あれは液体燃料でミサイルとしては不向き。その点、M-Vは固体燃料では世界最大級のロケットで、人工衛星や火星探査機を打ち上げてきた。簡単に弾道ミサイルに転用でき、射程9000㎞の能力がある。インドネシアなどが欲しがっているし、米国から技術提供を求められたこともある。

内局B やはり政治決断が必要なんだ。中国や韓国などの反応もあるから、外務省や親中・親韓派も黙っていない。

<片山さつき主計官の〝平成のバカ査定〟>

防衛産業D 本気で国防上の脅威を言うなら、中国を仮想敵国として考えることも避けて通れない。米国が日本に潜水艦の増強を求めるのは、中国の軍事プレゼンスに備えるためです。国内の議論もそれを踏まえて行なってほしい。

内局B 米国は中国が空母に加えて50隻以上の新型潜水艦を配備すると予測している。海自がP3C対潜哨戒機を世界一の97機も保有しているのは、米国の要請による。

佐官C 海自がヘリ護衛艦「ひゅうが」を建造したのは、対潜水艦哨戒・攻撃能力を持つ艦載ヘリSH-60 を搭載して中国の潜水艦を牽制する目的が大きい。現実には、すでに日米は中国を意識した防衛力整備を進めている。

防衛産業D 海自が今年3月に就役させた「そうりゅう」は、ディーゼルでは世界最大級の次世代潜水艦で、2週間潜航したまま行動でき、ステルス性が高いAIPシステム(非大気依存推進機構)を搭載している。

佐官C それまで潜水艦の名前は「なだしお」「おやしお」という海象(海洋の自然現象)の名前だったが、石破茂・防衛大臣の時代にわざわざ海自の艦船命名基準を変更して蒼龍という旧海軍の空母と同じ名をつけた。2隻目は「うんりゅう」(雲龍)です。日本は国是から空母を持てないから、せめて空母の脅威となる攻撃型潜水艦を、という思いを込めたのでしょう。軍事オタク大臣の気まぐれという陰口も聞こえるが(笑)。

防衛産業D 少なくとも中国の空母に対しては大きな脅威になります。

国防族A 米国のステルス戦闘機F-22の購入も、中国に対して抑止力になる。

佐官C ロシアは8年後、中国は12~13年後に第5世代戦闘機に移行すると見られている。第4世代の現行F-15では制空権を奪われる。ユーロファイターも同じ第4世代だ。空自は敵基地攻撃能力も備えるF-22を欲しがっている。

防衛産業D ただ、確かにF-22は空中戦の能力は高いが、現実にはそうした戦闘はあまり想定できません。だからアメリカも生産を中止した。1機200億円以上するF-22が本当に必要か、疑問の声も多い。少なくとも現状では、FXより潜水艦導入のほうが効果的だと思います。

佐官C 財務省はむしろ正反対の予算査定をした。小泉内閣で海自が「そうりゅう」の建造予算600億円を要求したとき、「潜水艦は時代遅れ」と認めず、陸自の定員や戦車などの正面装備にも大鉈を振るった。時の片山さつき・主計官による〝平成のバカ査定〟のおかげで、そうりゅうの配備が遅れた。政治家も財務省も、国防の危機など絵空事だと考えているのだろう。防衛大綱では、いまだに潜水艦の保有を16隻に制限している。

内局B その片山さんが代議士になり、地元の浜松でどんな選挙活動をしているか知ってますか?

国防族A 浜松には航空自衛隊の基地があるね。

内局B 胸に「F-22」バッジをつけて「新型戦闘機の予算をつけたのは私です」と胸を張って講演している(笑)。

部隊は定員割れ、兵器生産ラインも開店休業では……
防衛産業D われわれの立場から言えば、防衛省が国内産業を保護、育成していないという不満も少なくない。今回の15兆円補正予算でも、文部科学省がアニメの殿堂の建設費に117億円を獲得しているのに、防衛省が取った予算はわずか1300億円です。

佐官C その中身も、地デジテレビが2万2065台、エコカーが5682台。防衛産業には何も関係ないという不満が出るのは当然だろうな。

国防族A アホな予算を要求すると、今後も財務省にナメられることになる。

内局B 弁解になるが、今回の補正は「エコ」と「景気対策」という縛りがあり、単年度で消化しなければならなかった。そもそも補正に限ったことではなく、日本の単年度予算のなかでは大局的な防衛力整備の方針は示しにくい。

防衛産業D せめてテレビではなくクラスター弾の処理予算を取ってもらいたかった。福田内閣がクラスター弾すべての廃棄を決定したが、その予算は陸自で今年度60億円しかなく、今後、正面装備と関係ないクラスター弾を処理するプラントの建設費に200億~300億円かかる。防衛予算が細って必要な装備も揃えられないなかで、こういう補正予算でこそ、イレギュラーな事業費を取ってもらいたかった。爆弾処理は立派な「環境対策」でしょう。

内局B 補正は選挙目当てと言われていた。爆弾処理で票が増えますか? それに、財務省は来年からの新・中期防の予算を圧縮したいから、補正予算といえども簡単に防衛にはまわさなかったという印象もある。

国防族A あえて言うが、純粋に国防能力を考えるなら、自衛隊の装備計画は大幅に見直さなければ駄目だ。何のための装備なのか説明できないから財務省も説得できない。たとえば、いまやロシア軍が北海道に侵攻・上陸してくるという想定は現実的ではないのだから、機甲師団(戦車部隊)をあんなに持つより、高くても戦闘ヘリを増やした方がいい。その点では片山君が戦車予算を削った査定は理にかなっていた。

佐官C 陸自出身だからというわけではないが、戦車削減には賛成しかねます。戦車を国産できる国は限られている。カナダは一度、生産をやめたが、アフガンの国際治安部隊に参加して装甲戦闘車では敵の攻撃に耐えられないとわかって戦車生産を再開した。防衛装備は調達価格よりメンテナンスに何倍ものコストがかかる。一度、国産の技術が失われて輸入に頼れば、かえって改修やメンテナンスに時間とコストが必要になる。

防衛産業D 戦車1輌つくるのに、部品メーカーなど1300社が関わっています。砲身の技術が原子炉に応用されるなど、民生分野にも波及効果は大きい。しかし、予算削減で戦車の生産ラインの稼働率は17%程度。倒産、撤退する下請けも増えている。このままでは国産技術の継続もままならない。それで本当にいいのか、国民の意見が知りたい。こういう議論が国会でないことはとても残念です。

内局B 財務省からは逆に、「装備の選択と集中が足りない」と突かれる。

佐官C むしろ財務省に付け入る隙を与えたのは、守屋武昌・元事務次官の汚職だ。

内局B 問題になった防衛専門商社は、陸、海、空の将官クラスが顧問に天下っていた。内局だけの問題ではない。

国防族A そうやって鞘当てをするから「制服組と背広組の内紛」とマスコミに書かれる(笑)。自衛官は定年が早い。再就職問題は国家として考えるべきなのに、天下りというやり方で関連業界にコストを押し付けてきたのは事実だ。それが防衛調達を硬直化させた部分があるのはわかっている。政治の責任だよ。

防衛産業D OBも受け入れ、政治家とも付き合いますが、業界は儲かっていません。防衛装備の利益率は5%という暗黙のルールがあるのに、守屋事件のように一部の専門商社が大きな利益をあげた例が報じられると、防衛産業はボロ儲けしているように思われる。あれ以来、防衛省には仕様書を細かくチェックされ、手間ばかり増えました。



 我が国の安保政策は、憲法をはじめとしたさまざまな制約とタブーによって、必要な論議が隠されてきた。中国や北朝鮮を「仮想敵国」と呼べないことは最たる問題だろう。そして、そうした足かせは装備調達の問題だけでなく、命をかけて国民を守るべき自衛隊員たちの確保、訓練、地位向上にも悪影響を及ぼす。

「どんなに最新鋭の装備があっても、軍にとって人材不足と錬度の低下は致命的だ。北朝鮮の軍隊は物資不足で訓練もままならないと言われるが、自衛隊も笑えない。予算と人員が削られ続けて部隊の定員充足率は8割台。たとえば定員115人の小隊の場合、警備や倉庫当番、災害派遣の待機要員などを除くと6割しか訓練に参加できない。現役の部隊長は口が裂けても『うちの部隊は錬度が低い』とは言えないが、今の自衛隊の戦力ではPKOも海賊対策も臨検も不安がある。政府と国民に『これでは戦えません』とはっきり声をあげるべきだが、それで予算が増える保証もない。部隊指揮官の養成には20年かかると言われるのに」

 佐官OBであるC氏が危機感いっぱいに〝弱い自衛隊〟の現実を最後に語った。

 防衛装備とは、兵器の買い物で成り立つわけではない。国を守る人材の養成を怠り、数も質も足りない日本では、どんな高価な武器も無用の長物となりかねない。

【ミサイル防衛(BMD)】1998年の北朝鮮のミサイル実験を受け、2003年に導入した弾道ミサイル迎撃システム。命中精度がたびたび問題になっている。

【F-22】アメリカ空軍(USAF)のF-15C/D制空戦闘機の後継機として、ロッキード・マーティン社が先進戦術戦闘機計画に基づいて開発した、第5世代ジェット戦闘機に分類される世界初のステルス戦闘機である。ミサイルや爆弾を胴体内に搭載することや、アフターバーナーなしでの音速巡航(スーパークルーズ)能力を持つことを特徴とする。F-15Eと同様に多用途戦術戦闘機だが、より軽快でステルス特性と相まって空戦能力に優れるとされる。

【レーザーJDAM弾】機体から爆撃目標にレーザー照射をして誘導、慣性誘導システムGPSとの併用で精度の高い着弾を行なえる爆弾。

【P3C対潜哨戒機】冷戦時代に対ソ、対中戦略の一貫として1978年から大量に導入された潜水艦の探知にすぐれる哨戒機。

【ヘリ護衛艦「ひゅうが」】今年3月に就役した〝空母型〟艦船。最大で11機のヘリを搭載可能。

【艦載ヘリSH-60】多目的艦載ヘリ。海上自衛隊ではソノブイ、ソナーを搭載し、対潜戦闘能力に特化した戦闘ヘリとなっている。

【ユーロファイター】NATO加盟国のうちイギリス、イタリア、ドイツ、スペイン(計画開始当時西ドイツ)の四カ国が共同開発した戦闘機で、デルタ翼とコクピット前方にカナード(先尾翼)を備え、カナードデルタ(canard-delta)と呼ばれる形式の機体構成をもつマルチロール機。

【クラスター弾】弾頭内に収納している多数の子爆弾を、一定の高度で広範囲にまき散らす。子爆弾が不発弾として残り、終戦後に非戦闘員に被害者が出ることも多い。2008年、クラスター弾の禁止を定めた「オスロ条約」に日本も署名し、全面廃棄することとなった。

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