今そこにある危機(277) [国際・政治情勢]
「沖縄近海航行 中国海軍 新戦略の始まり
2010.4.20 13:04 産経新聞
沖ノ鳥島
□米「国際評価戦略センター」フィッシャー氏
【ワシントン=古森義久】駆逐艦2隻、潜水艦2隻、フリゲート艦3隻など計10隻の中国艦隊が10日、沖縄近海を南下したことについて、米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は、産経新聞とのインタビューで「中国海軍の新戦略の始まりであり、米軍への挑戦と日本の反応の探察を目的としている」との見解を明らかにした。
同研究員は、今回の動きが中国人民解放軍海軍としてはこれまで沿岸から最も遠い距離に出ての最大規模の演習行動だと特徴づけ、「日本は中国海軍のこの種の拡大行動にこれから定期的に直面する」と述べた。
中国側の戦略的狙いについて同研究員は、中国海軍が(1)遠洋活動能力を高め、多元的な艦隊、機能の確立を目指す新戦略のスタートとしている(2)訓練は東アジア、西太平洋での米海軍の覇権への挑戦を目指している(3)今回の艦隊の動きに日本がどう反応するかを考察することを意図している-という諸点をあげた。
とくに日本への意味については「中国海軍は今回の訓練航行が象徴する拡大活動を今後定着させ、日本との領有権紛争を抱える東シナ海での海軍力の増強によって、主権の主張に、より強い実効を発揮させることを意図している」と述べ、中国が沖縄諸島に関しても日本の領有権を明確には認めていない点を指摘した。
また、今回の中国艦隊の保有兵器に関連して(1)キロ級潜水艦が搭載する超音速のSS-N22サンバーン艦対艦ミサイルが有事の際、日本の自衛隊艦艇への大きな脅威となる(2)ソブレメンヌイ級駆逐艦が搭載する超音速SS-N27シズラー艦対艦ミサイルも自衛隊への脅威となるほか、米軍艦艇への接近拒否の威力を発揮できる-ことを指摘した。」
英作家スウィフトの『ガリバー旅行記』に登場する小人の国、リリパット島の物語だと思えばいいです。目の前の海を外国の大艦隊が悠々と行き来したのは念頭になく、海上を見張る監視塔が目障りだからほかへ持っていくかどうかで大騒ぎを演じています。世界の大勢などリリパットの最高指導者はどこ吹く風です。
中国艦艇が沖縄本島と宮古島の間を往復し、10日余にわたり太平洋側に進出しました。日本の鼻先で軍事力を誇示し、海上自衛隊護衛艦に艦載ヘリを90メートルまで接近させる挑発行為に及んびました。さらに日本の排他的経済水域(EEZ)では、海上保安庁の測量船を2時間以上にわたって追い回しました。追跡したのは海洋調査船のようだが、威嚇行為ではないでしょうか。
ハルフォード・マッキンダー、ニコラス・スパイクマン、アルフレッド・マハンらに代表される地政学、と聞いた途端にカタツムリのように身を縮める日本の風潮と反対に、中国を戦略的観点から見つめようとの試みは米国を中心に多角的に進められてきました。最新の論文の一つは、ニュー・アメリカン・セキュリティー研究所上級研究員のロバート・カプラン氏がフォーリン・アフェアーズ誌5-6月号の巻頭に書いた『中国の巨大地図-北京は陸と海でどれだけ勢力を拡張するか』です。
ユーラシア大陸2大国の一つであるロシアは大陸国家であるのに対し、中国は大陸国家であると同時に気候に恵まれた長大な海岸線を持つ東シナ海および南シナ海に面した海洋国家です。その中国の対外行動の原動力は13億人の生活水準を高めるため、エネルギー、金属、戦略的鉱物などを確保しようとする強烈な願望です。影響力は中央アジア、ロシア極東部、南シナ海、インド洋へと及びます。国内では石油、天然ガス、銅、鉄鉱を産する新疆ウイグルやチベットにおける少数民族への弾圧は緩めません。
中央アジアで、カスピ海から新疆に引いてくる石油のパイプライン、トルクメニスタンからウズベキスタンとカザフスタン経由の天然ガス・パイプラインが完成しつつあります。ロシア極東部に目をつけているのは天然ガス、石油、ダイヤモンド、金などがあるからで中国移民が急増し、対照的にロシア側の人口が急減しています。インド洋ではミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどで公然と港湾建設などを進め、いわゆる『真珠の首飾り』完成を進めています。中印の覇権争いです。
以上の分析をしたうえでカプラン氏は南シナ海に触れます。朝鮮半島、千島列島、琉球諸島を含む日本、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアを結ぶ第一列島線は、米国にとって『万里の長城』になっています。オーストラリアを除いた他の国々はいずれも中国との危険な2国間問題を抱えているうえ米軍のアジアにおける存在とともに中国海軍の太平洋への進出をチェックする役割を担っています。
カプラン論文は米国の長期戦略に近いところをついている、と私は判断します。ニクソン訪中から続いている米国の対中政策の基本は、中国と軍事対決を回避しつつこの大国を国際社会の常識になじませる関与政策です。同時に、自国の軍事力を整備し、同盟国や友好国との結びつきを強めるヘッジング(有事の際の準備)を怠らないに尽きます。
日本が中国との友好を重んじるのは当然ですが、日米同盟を弱め、自国のヘッジングでもあるべき米軍沖縄基地を不安定にし、仲井真弘多沖縄県知事を惑わせ、いまごろになって抑止力の意味がわかったなど臆面(おくめん)もなく述べている最高指導者とはそも何者なのでしょうか。
深刻なのは、国民の間に静かに広まっている独立国としての精神の崩壊です。民主党は中国の軍事力を『脅威』と認めない方針を5年前に確立しています。今回、中国海軍の挑発を受けた5日後に鳩山首相は胡錦濤国家主席と会談しましたが、この問題を持ち出しませんでした。何故か北沢俊美防衛相は日中首脳会談後に事実を国民に明らかにしています。自民党にも、『中国を刺激してはまずい』などといかにも訳知り顔で説く向きがいます。要するに中国の軍事力を恐れているのです。上海万博で日本館だけは国旗を掲げない現象とも無関係ではないでしょう。
北欧のフィンランドは、ソ連に果敢な抵抗をしましたが、1948年に友好協力相互援助条約を結びました。独立と体制を認めてもらう代わりにモスクワに楯突かないことを約束しました。日本にも対中関係で事実上の『フィンランド化』が進んでいるのではないでしょうか。世界の大勢をつかみ、日本の運命を託す救国の政治家は末期的乱世の中から登場すると私は思いたいですが、無理でしょうね^^;
2010.4.20 13:04 産経新聞
沖ノ鳥島
□米「国際評価戦略センター」フィッシャー氏
【ワシントン=古森義久】駆逐艦2隻、潜水艦2隻、フリゲート艦3隻など計10隻の中国艦隊が10日、沖縄近海を南下したことについて、米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は、産経新聞とのインタビューで「中国海軍の新戦略の始まりであり、米軍への挑戦と日本の反応の探察を目的としている」との見解を明らかにした。
同研究員は、今回の動きが中国人民解放軍海軍としてはこれまで沿岸から最も遠い距離に出ての最大規模の演習行動だと特徴づけ、「日本は中国海軍のこの種の拡大行動にこれから定期的に直面する」と述べた。
中国側の戦略的狙いについて同研究員は、中国海軍が(1)遠洋活動能力を高め、多元的な艦隊、機能の確立を目指す新戦略のスタートとしている(2)訓練は東アジア、西太平洋での米海軍の覇権への挑戦を目指している(3)今回の艦隊の動きに日本がどう反応するかを考察することを意図している-という諸点をあげた。
とくに日本への意味については「中国海軍は今回の訓練航行が象徴する拡大活動を今後定着させ、日本との領有権紛争を抱える東シナ海での海軍力の増強によって、主権の主張に、より強い実効を発揮させることを意図している」と述べ、中国が沖縄諸島に関しても日本の領有権を明確には認めていない点を指摘した。
また、今回の中国艦隊の保有兵器に関連して(1)キロ級潜水艦が搭載する超音速のSS-N22サンバーン艦対艦ミサイルが有事の際、日本の自衛隊艦艇への大きな脅威となる(2)ソブレメンヌイ級駆逐艦が搭載する超音速SS-N27シズラー艦対艦ミサイルも自衛隊への脅威となるほか、米軍艦艇への接近拒否の威力を発揮できる-ことを指摘した。」
英作家スウィフトの『ガリバー旅行記』に登場する小人の国、リリパット島の物語だと思えばいいです。目の前の海を外国の大艦隊が悠々と行き来したのは念頭になく、海上を見張る監視塔が目障りだからほかへ持っていくかどうかで大騒ぎを演じています。世界の大勢などリリパットの最高指導者はどこ吹く風です。
中国艦艇が沖縄本島と宮古島の間を往復し、10日余にわたり太平洋側に進出しました。日本の鼻先で軍事力を誇示し、海上自衛隊護衛艦に艦載ヘリを90メートルまで接近させる挑発行為に及んびました。さらに日本の排他的経済水域(EEZ)では、海上保安庁の測量船を2時間以上にわたって追い回しました。追跡したのは海洋調査船のようだが、威嚇行為ではないでしょうか。
ハルフォード・マッキンダー、ニコラス・スパイクマン、アルフレッド・マハンらに代表される地政学、と聞いた途端にカタツムリのように身を縮める日本の風潮と反対に、中国を戦略的観点から見つめようとの試みは米国を中心に多角的に進められてきました。最新の論文の一つは、ニュー・アメリカン・セキュリティー研究所上級研究員のロバート・カプラン氏がフォーリン・アフェアーズ誌5-6月号の巻頭に書いた『中国の巨大地図-北京は陸と海でどれだけ勢力を拡張するか』です。
ユーラシア大陸2大国の一つであるロシアは大陸国家であるのに対し、中国は大陸国家であると同時に気候に恵まれた長大な海岸線を持つ東シナ海および南シナ海に面した海洋国家です。その中国の対外行動の原動力は13億人の生活水準を高めるため、エネルギー、金属、戦略的鉱物などを確保しようとする強烈な願望です。影響力は中央アジア、ロシア極東部、南シナ海、インド洋へと及びます。国内では石油、天然ガス、銅、鉄鉱を産する新疆ウイグルやチベットにおける少数民族への弾圧は緩めません。
中央アジアで、カスピ海から新疆に引いてくる石油のパイプライン、トルクメニスタンからウズベキスタンとカザフスタン経由の天然ガス・パイプラインが完成しつつあります。ロシア極東部に目をつけているのは天然ガス、石油、ダイヤモンド、金などがあるからで中国移民が急増し、対照的にロシア側の人口が急減しています。インド洋ではミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどで公然と港湾建設などを進め、いわゆる『真珠の首飾り』完成を進めています。中印の覇権争いです。
以上の分析をしたうえでカプラン氏は南シナ海に触れます。朝鮮半島、千島列島、琉球諸島を含む日本、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアを結ぶ第一列島線は、米国にとって『万里の長城』になっています。オーストラリアを除いた他の国々はいずれも中国との危険な2国間問題を抱えているうえ米軍のアジアにおける存在とともに中国海軍の太平洋への進出をチェックする役割を担っています。
カプラン論文は米国の長期戦略に近いところをついている、と私は判断します。ニクソン訪中から続いている米国の対中政策の基本は、中国と軍事対決を回避しつつこの大国を国際社会の常識になじませる関与政策です。同時に、自国の軍事力を整備し、同盟国や友好国との結びつきを強めるヘッジング(有事の際の準備)を怠らないに尽きます。
日本が中国との友好を重んじるのは当然ですが、日米同盟を弱め、自国のヘッジングでもあるべき米軍沖縄基地を不安定にし、仲井真弘多沖縄県知事を惑わせ、いまごろになって抑止力の意味がわかったなど臆面(おくめん)もなく述べている最高指導者とはそも何者なのでしょうか。
深刻なのは、国民の間に静かに広まっている独立国としての精神の崩壊です。民主党は中国の軍事力を『脅威』と認めない方針を5年前に確立しています。今回、中国海軍の挑発を受けた5日後に鳩山首相は胡錦濤国家主席と会談しましたが、この問題を持ち出しませんでした。何故か北沢俊美防衛相は日中首脳会談後に事実を国民に明らかにしています。自民党にも、『中国を刺激してはまずい』などといかにも訳知り顔で説く向きがいます。要するに中国の軍事力を恐れているのです。上海万博で日本館だけは国旗を掲げない現象とも無関係ではないでしょう。
北欧のフィンランドは、ソ連に果敢な抵抗をしましたが、1948年に友好協力相互援助条約を結びました。独立と体制を認めてもらう代わりにモスクワに楯突かないことを約束しました。日本にも対中関係で事実上の『フィンランド化』が進んでいるのではないでしょうか。世界の大勢をつかみ、日本の運命を託す救国の政治家は末期的乱世の中から登場すると私は思いたいですが、無理でしょうね^^;
“悪の論理”で世界は動く!~地政学—日本属国化を狙う中国、捨てる米国
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中国の狙いは民族絶滅―チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い
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タグ:国際・政治情勢
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